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京都地方裁判所 昭和40年(ワ)987号 判決

昭和四〇年(ワ)第九八七号事件原告

昭和四一年(ワ)第三〇〇号事件被告

相互タクシー株式会社

昭和四〇年(ワ)第九八七号事件被告

昭和四一年(ワ)第三〇〇号事件原告

大一運送株式会社

主文

相互タクシー株式会社は、大一運送株式会社に対し、金一万〇八八三円及びこれに対する昭和四〇年一〇月二八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

その余の請求は何れも之を棄却する。

訴訟費用はこれを十分し、その七を相互タクシー株式会社の、その三を大一運送株式会社の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一両当事者の求める裁判

(昭和四〇年(ワ)第九八七号事件)につき、被告(昭和四一年(ワ)第三〇〇号事件の原告)は、原告に対し金二一万六七二五円およびこれに対する本件訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告(昭和四一年(ワ)第三〇〇号事件の原告、以下単に被告と称する)の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。との裁判を求め

との裁判を求め

(昭和四一年(ワ)第三〇〇号事件)につき、被告(昭和四〇年(ワ)第九八七号事件の原告)は、原告に対し金八万七〇〇〇円およびこれに対する昭和四〇年一〇月二八日から完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告(昭和四〇年(ワ)第九八七号事件の原告、以下単に原告と称する)の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

との裁判を求めた。

第二争いのない事実

一、昭和四〇年五月五日午前六時三〇分頃、京都市右京区四条通春日交差点において、訴外谷垣隆一運転の乗用自動車(京-五-あ-九六一五)(以下原告車と略称する)と訴外甲斐寿和運転の自動車(大-四-あ-五八八一)(以下被告車と略称する)との衝突事故が発生したこと。

二、右谷垣は原告の従業員、同甲斐は被告の従業員であつて何れも本件事故は、会社の業務執行中に発生したものであり、原告車は原告の被告車は被告の各所有に属すること。

三、各当事者主張の損害額中、各免れた必要経費(原告七一三六円被告五〇〇〇円)

第三原告の主張

一、本件交通事故は、前記訴外甲斐の過失に起因するものである。

訴外谷垣は原告車を運転して、四条通を東進中、春日通との交差点に到り、同交差点の東西方向の信号機の表示が赤色であつたので停止し、赤色が消え続いて青色が点灯すべきところ、故障により点灯しないので、当然進行してもよいと考え、同交差点にギヤーをローにして進入したところ、春日通を北進してきた訴外甲斐の運転する自動車は、同交差点における南北方向の信号の表示が赤色であるにも拘らず、これを無視し、且つ、前方及び側方への注視の注意義務を怠つて時速約六〇キロメートルで進行した過失により、原告車をして被告車の左側方に衝突せしめるの余儀なきに至らせたものである。仮に谷垣に過失があつたとしても過失相殺を主張する。

二、右事故により原告車は次の損害を蒙つた。

イ  本件交通事故により、原告所有の右車両が破損し、その修理費として、金一六万六七二五円を要した。

ロ  原告は、タクシー営業を行なつているものであるが、本件事故に遭遇した右車両も営業用車両であり、本件事故による損壊の修理のため、事故当日より八日間、同車両を使用できなかつたので、その間に営業のため運行に供することができていたなら得ることができた筈の利益を失つたものであり、その計算は左記のとおりである。

右車両の運行により本件交通事故のあつた昭和四〇年五月に得た収入は、前記のとおり修理のため使用不能であつた八日間以外の二二日間で、総額金一五万七一四〇円であり、一日平均額金七一四二円となり、八日間では金五万七一三六円であるので、前記車両の使用不能であつた八日間に得べかりし利益は、金五万七一三六円であるが、一方、同車両を運行に供しなかつた為に、支出を免れた必要経費ガソリン代は金七一三六円であるので、結局原告の蒙つた損害額は金五万円となる。

以上の総額は金二一万六七二五円である。

第四被告の主張

一、本件交通事故は前記訴外谷垣の過失に起因するものである。

訴外甲斐は被告車を運転して春日通を北進して四条通との交差点に到り、南北方向の信号機の表示が青色点滅であつたので、同交差点に進入し、同信号が青色点滅の間に北側に渡りきろうとしていた際、訴外谷垣が信号の表示を無視して、同交差点に進入し自車を被告車の側面に衝突させたものである。

二、右事故により被告車は次の損害蒙つた。

イ  本件交通事故により、被告所有の右車両が破損し、その修理費として金四万三五〇〇円を要した。

ロ  本件事故当時、右車両には被告と訴外雪印乳業株式会社の運送契約に基いて、右訴外会社の牛乳が積載されており、被告は右訴外会社に対し、運送品の安全について全責任を負う旨約定していたところ、本件事故により、牛乳が損壊したので、これの代金の賠償額金三五〇〇円も被告の損害である。

ハ  右積載中の牛乳のうち、破損しなかつたものについては早急に運送をする必要があつたので、訴外斉藤運輸株式会社との間に傭車契約をなし、その結果、右訴外会社に対し、傭車料金三〇〇〇円を支払つたので、これも被告の損害である。

ニ  被告と前記訴外雪印乳業株式会社の間には、被告が右訴外会社の乳製品を継続的に運送し、運送量の多少に拘らず、一日について金七〇〇〇円の報酬を被告が受ける約定があつたところ、本件交通事故により、前記被告所有の車両の修理のため、六日間右車両を使用することができなかつたので、結局、金四万二〇〇〇円の得べかりし利益を失つたのであるが、一方この間右車両を運行に供していた場合、必要とする経費(ガソリン代)は、金五〇〇〇円であるので、被告が蒙つた損害としては、金三万七〇〇〇円となる。

以上の総損害額は金八万七〇〇〇円である。

第五証拠及その認否〔略〕

第六争点に関する判断

一、事故の態様、双方運転手の過失並過失相殺

〔証拠略〕を綜合すれば、タクシーである原告車を運転して、四条通を東進しつつあつた訴外谷垣隆一は、北側歩道に客とおぼしき人物を発見したので、東行車道歩道沿いに徐行して走行し、春日通との交差点手前(西側)横断歩道に到達したところ、同交差点の東行車道用信号が赤を表示していたので停止せんとしたが、その時赤の表示が消え、反射的にアクセルをふかして同交差点に進入した。一方訴外甲斐の運転する被告車(二噸積の車に約一トンの牛乳ビンを積み)は春日通を北進し四条通の交差点に差しかかつたところ信号が黄であつたが、黄の間に北へ抜けられるものと判断し、時速約三五キロメートルで同交差点に進入したところ、約一六メートル進行した地点で被告車の左方側面に前記原告車が衝突した。同所東北角にある信号機のみは故障のため、赤の表示から青の表示に変る瞬間に消えてしまつた。右認定の事実によれば、東行する原告車の運転手としては、信号機の無い交差点を横断する際に於ける注意即南北の通りを進行して来る車両の有無を確認すると共に、当時南北の信号は故障して居らなかつたのであるから、その信号の表示をも確めて安全を確認した上進行し他の車両との衝突接触を避ける注意義務があるのに、原告車はこれ等の注意を怠り進行した過失があり、一方被告車は信号は既に進入の際黄色になつているのであるから(証人甲斐は青点滅で進入したと述べているが、〔証拠略〕により一致した南北信号の黄色点灯時間が何れも五秒であつたころから見て、幅員二五・四八の距離を時速三五キロメートルで進行したとすれば優に通り抜けられる筈であり、従つて、横断途中で赤になる筈がないところから、被告車は黄信号になつてから進入したものと認定した)当然横断歩道手前の停止線に於て停止しなければならない義務がある。結局本件事故の態様から見て、過失の割合は原告車七割、被告車三割と認める。

二、双方の損害の程度

〔証拠略〕によれば、原告主張の請求原因事実中車両修理費の一六万六七二五円の損害が認められるが、その修理期間並、期間中の逸失利益については何等立証がないから、前記修理費の他は認められない。

一方〔証拠略〕を綜合すれば、被告主張の請求原因事実(2)項中イ、ロ、ハ の事実が認められ、〔証拠略〕によれば、請求原因事実(2)項中、ニのうち、被告主張どおり被告が金四万二〇〇〇円の得べかりし収入を失つた事実が認められ、一方、右認定により被告車を六日間運行した場合、被告が必要とする経費は金五〇〇〇円であることは当事者間に争のない事実であるから、以上の事実を綜合すれば、被告は本件交通事故により金八万七〇〇〇円の損害を蒙つた事実が認められる。

第七結論

以上によれば、原告の被告に対する請求については、原告に生じた損害額の七割を原告側の過失によるものとして相殺した金五万〇〇一七円及び本件請求につき既に遅滞にある原告から被告への本件訴状送達の翌日である昭和四〇年一一月一八日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の請求につき理由があるのでこれを認容し、その余の請求についてはこれを棄却し、被告の原告に対する請求については、被告に生じた損害額の三割を被告側の過失によるものとして相殺した金六万〇九〇〇円及び、本件請求につき既に遅滞にある昭和四〇年一〇月二八日から支払済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の請求につき理由があるのでこれを認容し、その余の請求については棄却することとし、従つて結局に於て原告は被告に対し右差額一万〇八八三円と右日時よりの遅延損害金の支払義務がある訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山田常雄)

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